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石井正純(Masa ISHII)

Corporate Venture Studio のすすめ ‐1/3‐

近年、多くの日本企業が新規事業の創出を目指して、Corporate Venture Capital (CVC、コーポレート・ベンチャーキャピタル)の仕組みを盛んに活用している。この傾向は特に7、8年前から顕著になっている。でも、今になって頭を悩ましているCVC担当者も多いのではないか?それは、経営トップからCVC投資の結果、新規事業が生まれているかどうかの説明を求められる時期に差し掛かっているにもかかわらず、満足のいく説明ができないからだ。



今回のブログ記事は次の3回のシリーズでを通じて、VCやCVC投資にも関連した新規事業の創出と育成の新しいモデル、Corporate Venture Studio(コーポレート・ベンチャースタジオ)について解説する。

 

1.       これまでの日本企業のCVC投資

2.       CVC投資から新規事業がなかなか生まれない理由

3.       Corporate Venture Studioのすすめ

 

これまでの日本企業のCVC投資

 

日本の事業会社がVCファンド、特に米国のVCファンドに投資をして、そこから新規事業の種になりそうな情報にアクセスしようという考えは、1980年代まで遡る事が出来る。

 

筆者が知っている最初の試みは、ボストン地域の老舗VCであるTA Associatesから1985年にスピンアウトしたAdvent Internationalのファンドに、当時の新日鐵や富士通が1980年代後半にLP (Limited Partner)として投資をしたケースだ。Advent Internationalは事業会社に対して新規事業創出に役立つハイテクベンチャーの情報を提供するという目的で、Corporate Programというプログラム(LP企業ごとに別のファンドを組成し運用)を提供していた。残念ながら、ファイナンシャル・リターンはあったものの、この投資から新日鐵や富士通の中核事業に育った案件については聞いたことがない。

 

これを日本企業のVC/CVC投資の第一波と呼ぶならば、第二波は1990年代後半にやってきた。当時の日本は、バブル経済の崩壊、デフレ、金融危機に見舞われ、特に鉄鋼、造船、繊維などの産業が成熟し、斜陽化が進む中で多角化を模索し始めた時期だ。一方、インターネットの普及に伴い、特にITやコミュニケーションの分野が急成長を遂げたのもこの時期だ。こうした背景の中、ICTの分野での新規事業の種の発掘を目的に、1997年にはNECが自前のCVC、「Convergence Partners」 を組成、1999年にはパナソニックが「Panasonic Digital Concepts Center」(PDCC)というインキュベータをシリコンバレーに開設した。NECのファンドはその後、名前や担当者が変わり2012年頃まで続いたが、目立った成果なく期限切れとなった。パナソニックのインキュベータはシナジーの強ベンチャーに直接投資する機能を持っていたが、3年程で本社サイドの方針が変わり、現在ではファイナンシャル・リターンを目的とするVCファンド「Conductive ventures」とR&D主体の部門(Panasonic Silicon Valley Innovation Center(PSVIC)」の二本立てで存続してはいるが、当時のPDCCそのものから大きな事業に育った案件があったかというと、これも定かではない。

 

そして、現在の第三波は7、8年前に始まった。CVCバブルと呼んでも良いほど多くの日本企業がCVC投資を行なっている。2015年頃から日本企業のCVCファンドへの投資は増加しており、VC専門の調査会社PitchBookによれば、2021の時点で日本のCVCは548に上り、2015年に比べ約2.6倍に増えている。2022年の時点で、日本のVC/CVCからハイテク先進国の米国に注がれてた投資額は$11.4 Billionに達し、日本のVC/CVC の投資額の実に48%に上っている。

 

冒頭に述べたように、問題は、フィナンシャル・リターンはともかく、CVC投資の結果として新規事業が創出され順調に育っているケースが非常に少ないことだ。このまま結果が出なければ、今回の第三波もこれまでの二の舞を踏み、CVCバブルも崩壊の道をたどることになるだろう。

 

次回は、これまでのCVC投資がなぜ新規事業を生んで来なかったか、その理由について考察する。ぜひお楽しみに。

 

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