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Masa ISHII (石井正純)

Corporate Venture Studio のすすめ - 3/3 -

三回のシリーズ記事の最終回になる今回は、前回述べたスタートアップの起業家精神と大企業の思考・行動様式とのギャップを埋める有効な手立てと考えられるCorporate Venture Studio (コーポレート・ベンチャースタジオ)のモデルを紹介する。




 Corporate Venture Studioにより新規事業を創出し成長の軌道に乗せる


一般的なベンチャースタジオは独立した会社が将来性のあるビジネスのアイデアを発掘し、それをベースにみずからスタートアップを興し育成する、というモデルだ。この点で、いわゆるインキュベータやアクセラレータに比べ、よりハンズオンなスタンスでスタートアップを育てていく。ベンチャースタジオのコンセプトは1996年にBill Grossによってシリコンバレーに創立されたIdealabがその始まりといえるが、2007年頃からベンチャースタジオのコンセプトは定着し、その効果が検証されてきた。

 

一方、Corporate Venture Studio(コーポレート・ベンチャースタジオ、CVS)は、事業会社が自社の将来の成長に寄与するであろう新規事業のシーズの発掘とそのシーズをベースにした新規事業を成長軌道に乗せることを目的に設立し運営するベンチャースタジオだ。

 

コーポレート・ベンチャースタジオの基本的な考え方と運営方法を説明するとおよそ次のようになる。

 

  1. CVSの組織(Organization):CVSは企業内部の一部門として設置することも、本社から独立した外部組織として設定することも可能だが、日本企業の場合は、出来るだけ自社の従来のコーポレートカルチャーにとらわれず、スタートアップの起業家精神を大いに活かせるような体制を組むことが賢明といえる。

  2.  戦略的整合性(Strategic Alignment):CVSの取り組みは、企業の長期的な成長戦略に沿っているものでなければならない。たとえば社内の戦略プロジェクトあるいは外部の経営コンサルタントの活用により特定された成長目標および優先すべき新事業領域との整合性を取ることが前提となる。

  3. アイデア生成(Ideation):特定された優先すべき新事業領域の中で、社内情報、投資先のCVCからの情報、外部の起業家、外部コンサルからの提言等をベースに、さらにブレーンストーミング・セッションやワークショップなどを通してベンチャースタジオで創出・育成の対象とする具体的な事業を特定する。特にCVCやLP投資をしている日本企業は、そこから技術や産業の動向、ベンチャーエコシステムの理解、スタートアップの成長プロセスの理解、優秀な人材へのアクセス、親会社の戦略的方向性のバリデーション、といった点で有益な情報やインサイトが得られ、アイデア生成に役立てることが出来る。

  4. 本社リソースの活用(Corporate Resources Utilization):CVSでは、資金、人材、技術、業界の専門知識、販売チャネル、顧客ベース、ブランド力など、本社の豊富なリソースにアクセスし活用できるような取り決めを行なう。本社リソースの活用はCVS固有の大きな利点といえる。

  5.  本社の積極的な関与(Active Involvement):CVSで創出されるベンチャーは多くの場合、親会社からは一旦は独立したオペーレーションになるが、親会社は、ベンチャーの初期段階の課題解決や戦略的方向性の確認には積極的に関与する。場合によってはベンチャーのキーパーソンを親会社から送り込むこともあり得る。CVSで創出されたベンチャーは将来的に親会社への吸収を目指すのが普通だが、独立したままで成長を続けることもあり得る。

  6. リスクとリワードの管理(Risk/Reward Management):CVSで創出されるベンチャーと親会社はファイナンシャルなリスクとリワード(報酬)の両方をシェアすることになる。スタートアップは、資金的な面で親会社からある程度のセーフティネットを確保できるが、その場合戦略的な自由度が制限されることにもなりかねない。一方、リワードは、イノベーションと事業の成長に向けたインセンティブが一致するような形で設定し、ベンチャーと親会社と間でシェアされる。また、親会社としては、長期的な観点から大きな戦略的価値をもたらす事業を構築する、という考えでCVSを進めることになる。

  7. 市場アクセスとスケーリング(Market Access and Scaling):CVSの重要な利点の一つは、新規事業を迅速にスケールアップできる可能性だ。分野によっては親会社の販売チャネルや顧客ベースへの直接アクセスにより、ベンチャーは迅速な成長と市場参入を目指すことができる。

 

これまでの説明で分かるように、コーポレート・ベンチャースタジオは、スタートアップの起業家精神と大企業の豊富なリソースの間の橋渡しをし、企業の新規事業を迅速に成長の軌道に乗せる役割を果たすことができる。CVCにおカネは入れたものの、新規事業の創成と育成の成果が出ていない日本企業にはコーポレート・ベンチャースタジオの検討を是非おすすめしたい。

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