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Masa ISHII

企業がStartupに対して出資する意味(2)

第2回:Startup投資における財務的リターン

大企業/中堅企業(大企業)が、オープンイノベーション(OI)の一環としてStartupとの事業提携を行った場合、大企業側の主たる関心事は、自社の新事業開発や新製品開発にあるのが普通である。その時、何らかの理由で出資を行っても、主要関心事が自社の新事業/新製品にあるので、出資による財務的リターン獲得は、二の次の目標ということになる。言わば、自社の事業という本業で利益を追求するのが主目的になり、投資は本業ではないので、それによるゲイン追求は主たる関心事ではなくなる、ということである。

この事象はよく理解できることであり、実際、経営者(あるいは担当者)がそのように発言することも多い。確かに、事業の経営主体として、経営者が本業重視の姿勢を示すことは正しい事であり、何も問題はないと考えられやすい。ただ、本当に問題がないと言えるであろうか。答えはNoである。この姿勢の故に、Startupに対して出資をしても、その出資から得られる財務的リターンは重視しない(あるいは、どうでもよい)ということになると、その企業全体としての業績という面で、大きな機会損失がでてくる。

理解を深めるための分かり易い事例として、まず、大企業とStartupとの提携で最も多い形態である販売提携を考えてみる。これは主として、大企業が提携先のStartupの製品を販売することを主目的とする提携形態である。特に提携先のStartupが海外企業である場合、日本市場で自社製品を売ってくれるパートナとして、日本側の企業を位置づけるもので、特によく見られる提携形態であるが、この場合、日本の大企業側から見ると、Startupの(革新的)製品を売ることで、自社事業の製品ラインを増やし、事業成長につなげる事に寄与することを狙ったものと位置付けられる。

提携が上手くいって自社の売上げを伸ばせた場合、大企業側として本業を若干伸ばせたことになるが、その数値は、少なくとも初期段階では、かなり小さなものとなるのが普通である。(勿論、将来的成長を狙ってはいるが。)他方、Startup側から見ると、提携先大企業のおかげで自社製品の売上げが伸び、初期段階のStartupにとっては、比較的高い売上成長率を得ることになる。その結果、そのStartupの企業価値は、かなり(あるいは、それなりの)上昇をすることになる。

出典:AZCA


このケースを図に示すと、例えば、前年売上高が5億円、企業価値15億円のStartupが大企業と販売提携を行い、その結果翌年の売上10億円増(自社努力分5億円、提携先大企業貢献分5億円)となったとする。その時、提携先企業にとっては、事業として売上高5億円増、利益率2%として利益1,000万円増(初期段階では赤字のケースも)ということになるが、これらはその大企業にとっては微々たる成長である。他方、Startupにとっては、同じ比率で考えて企業価値30億円増となり、その内提携先企業貢献分が15億円となる。

提携先大企業にとって、本業の成長は微々たるものであるが、Startup側の企業価値増加分30億円の内の一部を、貢献分として得て当然と考えられる。しかし販売提携だけでは、本業のゲイン分しか入手できない。ところがもし1年前の提携時に5億円出資していれば、持ち株比率25%で、7.5億円の投資益(この時点でまだ未実現)を得ることになる。自社貢献分だけでも3.75億円の益(財務的ゲイン)で、これは純粋に本業部分で稼いだ利益金額よりも遥かに大きい。(しかも大事な点は自社の本業成長関連のゲインである事である。)

以上、一番分かり易い販売提携を考えたが、他の提携形態でも、Startup側の企業価値増加に大きく寄与できるケースはいろいろあり、その企業価値増加分のある部分を利益として認識できれば、これは広い意味で本業追求の結果と考えることができる。この場合、投資に伴う財務的リターンの追求は、堂々と本業によるゲインの追求とみてよいと考えられる。つまり、「本業」の定義は、ある意味、物事の見方次第ということができ、あまり「本業」か否かを意識しすぎることに意味はない、と言えるのではないだろうか。

ここで重要なことは、OIのような企業提携において、企業側がStartupに対し、何らかの貢献をすることによりその企業価値向上に寄与できれば、そのStartup対して投資をすることに意味がある、ということを意味している。例えば、自社がStartupの製品を担いで自社の顧客ベースに売らなくても、ある程度の量を自社利用の為に購入するといったことでも良いということになる。更に敷衍していえば、提携先のStartupの売上成長のための各種の有効なサポートを行う事ができれば、よいとも考えられる。

勿論この場合は、厳密に言えば、自社の本業伸長のための提携ではないとも考えられるが、Startupとの提携においては、この支援/サポートは非常に重要な部分である。一般に、ベンチャ・キャピタルは、Startupに対して資金提供することを事業の基本としているが、実は、資金提供のほかにこの(Hands-on)支援の部分が、投資先Startup成功の為に非常に重要となっている。企業がStartupと提携する場合も、同様に、様々な支援を提供することが、そのStartupの成功の為に、そして提携によるゲインを得る上で、必須のものとなる。

ということで、大企業とStartupの提携は、大企業側の事業開発や新製品開発・販売という事業を通しての戦略的ゲインの獲得狙いという側面を基本としつつも、Startup側の事業成長という面からも評価されなければならない。そしてその本質は、大企業側からのStartupへの出資とそれに対する財務的ゲインの追求に伴うStartup支援の推進ということになる。つまり、ある意味、こうした面からの大企業側の意識改革が、両社の連携を成功に導くカギを握るとも言えるのである。(第3回に続く)

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